港北ミッドナイト


悪夢のビート

プロローグ

友人のホンダ ビートが壊れたという噂を聞いた。 なんでも首都高かどこかでいきなり立往生して牽引きで帰ったという。 他人のドツボほど楽しいものはないので、早速本人に事情を聞いてみた。

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「やっほー、Beat壊したんだって?」
「そうそう、なんかタイミングベルト切れたみたいでさ。」
「タイミングベルト切れた? マジ???」

最初はからかい半分だったが、 タイミングベルト切れともなると話は違う。 ダメージが大きいだけに洒落にならない。

「走行はどれくらい?」
「6万5千kmくらい。」
「なんだ、そんなんじゃ切れないでしょ?」
「いや、ビートって5万kmくらいでやばいんだって。 どっかのホームページで読んだ。」
「んな馬鹿な。デルタとかはたまに聞くけど、仮にも日本車で5万kmってことないんじゃないの?」

自分では外車だから日本車だからという偏見はあまりないつもりだったが、 こういうときはつい口に出るものだ。

「なんでもディスビとかウォータポンプの劣化が原因で逝っちゃうんだって。」
「なにそれ? 欠陥車じゃないの?」

「どんな感じでエンジン止まった?」
「ちょっとした登りで発進するときにいきなりパタっと。」
「発進時つうのはまあよくある話だけど、うーむ...。」

「その後スタータ回した?」
「ガンガン回した。でもかからなかった。」
「なんとなく軽くなかった? いつもよりギュンギュン回るとか。」
「そういえば、ギュンギュン回った。」
「うむむむむ。でも5万kmやそこらで、うーむ...。」

「今ディーラで見積もり頼んでるところ。」
「そうなんだ。安いといいね...。」

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数日後、彼はビートを廃車にすることに決めた。 2台目の遊び専用軽自動車を直すには高過ぎる金額だったらしい。

「あのさあ、廃車にするくらいならさ、現状でオレにくれない? 廃車だって金かかるし。」
「まさか直す気?」
「そのまさか。」
「そりゃ直して乗ってくれるんだったらあげてもいいよ。本当は廃車になんてしたくないし。」
「マジ? 男に二言はないよね? よっしゃー。」

そんなこんなで、お不動ビートを引き取ることになったわけである。

Honda Beat

が、それから数日後、彼は僕に「あげる」のではなく「売る」ことに決めたのだった。

しくしく...。 まあ、酒の席での約束だったし仕方ないか。ビートの中古相場も結構高いみたいだから。

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週末を待ってディーラへ車を取りに向かう。 ディーラはまさか本当に引き取りに来るとは思わなかったのか、相当に変な/嫌な顔。

「途中で直せなくなって持ってきても知らねーからな。」

と言われているようなプレシャーを感じたが、まあ気のせいだろう。 ローダ借りるのは高いし、距離も近いので牽引である。

駐車場に着き、 車の現状と外されたいくつかの部品を適当に眺めていると、 あった、あった、ちぎれたタイミングベルト。

Timing Belt

切れかかったまましばらく粘ったのか、 層が剥がれるようなダメージが5、6山くらいに広範囲に渡っている。 なるほどこんな切れ方もあるんだ。 こりゃエンジンの方も楽しみだ。

過去の経験から言って、ピストンはせいぜいカスリ傷、つまり腰下はまず大丈夫だろう。 問題はヘッドだが、最悪を考えれば バルブの半分は折れ曲がり、 ガイドは歪んで使いものにならず、 さらには曲がったバルブがシートに食い込んでいる、 といったところか。 カムその他はおそらく問題ないだろう。

さて、どうしよう?

どうせエンジンを降ろすんだから、 中古エンジンを探して手取り早く載せ換えで済ます? そうすれば今のエンジンはゆっくりチューニングして予備にすればいいし。 でも調子悪いハズレ引くかもしれないし、最悪載せた途端にまた降ろすハメになったりして...。 なによりエンジンの保管場所が問題だ。

やはりヘッドをきっちりやる? でも先の最悪メニューだと、部品だけでも結構な金額がかかるし、下手すりゃ中古エンジン買うのと変わらない。 時間も相当かかるだろう。

どうせ時間かかるのなら、いっそのことスワップもありかな? エンジンルームが狭そうだけど、どこかの軽のターボとかなら載るだろうし。 ひょっとしてロータリなんてコンパクトだし載っちゃったりして? 無理か...。

などと妄想は広がる一方。

まあ、とりあえずエンジン降ろして被害状況を調べてから考えることにしよう。

Honda Beat

準備へつづく。



Takahiro Asai (t_asai@yk.rim.or.jp)
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