About Lotus Elan

['64 Lotus Elan 1600]


Lotusってなんですか?

いわゆる合コンなんかの酒の席、特に初対面の女性に対しては、なるべく車の話はしないようにしてる。自重してる。 何故って、単に面倒だから。 もちろん、そういう席では車を持ってる男の方がモテるってことくらいはわかってる。 そういう席で自分の車をここぞとばかりに自慢する人間がいることも知ってる。 でも僕はやらない。 何故って、面倒くさいから。

「趣味とかってあるんですか?」
「色々あるけど..。まあ、車とか。」
「へー、車乗られてるんですか。何ていう車ですか?」
「うーん..、多分言ってもわからないと思うから。」
「一応言ってみて下さい。私、こう見えても結構車に詳しいんですよ。」
「へー、そうなんだ。ロー、タ、スって言うんだけど。知ってる?」
「へっ? ろーたす? なんとなく聞いたことある気がするけど..。 (隣の娘に向かって) ねーねー、ろーたすって知ってる?」
「ロータス? うん、知ってるよ。だって会社で毎日使ってるもーん。ワン、ツー、スリーでしょ!」

おあいにくさま。悪いけどそのギャク全然面白くないよ。 だってLotus乗りだったらもううんざりするほど聞いてるもの。 一応言っとくけど「ノーツでしょ?」もダメだからね。 せめてExcelって言ってくれたら、少なくとも間違いではなかったんだけど。 もっともありゃMicrosoftだっけ。

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「Lotusっていうのはね、イギリスのスポーツカーばかりを専門に作ってるメーカでね、 F1で7回もコンストラクターズタイトル取ってるし、 ちなみにコンストラクターズってのは1年間でもっとも速いマシンってことね、 あのセナさまも3年間乗ってたし、初優勝もLotusで挙げた。 今年('98)タイトルに最も近いところにいるミカハッキネンもLotusでデビューしたんだよ。 それにWRCでも勝ってるし。あ、WRCは世界ラリー選手権のことね。 Lancia Deltaの連勝が始まる前の年にタイトルを取ったんだ。ちょっと地味な車だったけどね。 アメリカじゃIndy 500も勝っちゃったりして、インディってのはどっかの芸能人の犬じゃないよ、 Lotusってば、そりゃもう速くてかっこいい車ばかりをずっと生産し続けてるすごいメーカなんだよ。

アンソニー コーリン ブルース チャップマンって人が創立者の名前でね、 エンブレムは蓮、これがまた緑と黄色で素敵なんだ。 ちなみにエンブレムの上の方のごちゃごちゃした部分は、 よく見ると"A"、"C"、"B"、"C"とチャップマンの頭文字を組み合わせたものになってるよ。

昔は小さくて速くてそれでいて値段が安い車ばかりを作っちゃあ売っていて、 確かにFerrariなんかに比べたら美しさや優雅さはちょっと足りないかもしれないけど、 その反面、機能的、つまり走るのに必要最小限のメカニズムしか持っていないという潔さ、 まあ事故ると危ないってことでもあるけど。 そして時にはすごく繊細な面を見せて扱いに気を使わせる、 要するに壊れ易いってことでもあるわけだけど...。 でも巷で言われているよりホントは丈夫なんだよ。

一時期、ちょっとばかし大きな車を売るようになって、Espritっていうんだけど、 ほら、氷の微笑とか、プリティーウーマンに素敵な車が出てたでしょ? あれがそう。 007じゃ潜水艦にも変身したりして。 なに? BMW Z3? あのさあ、独車コロがしてるジェームスボンドなんてがっかりだと思わない?

ちなみにLotusは自転車も作ったことがあって、 これはバルセロナオリンピックでイギリスに金メダルをもたらしたんだ。 世界記録のおまけつきでね。 2輪しかなくったって仮にもLotusだから、走ったからには勝つ、という宿命を背負っているんだ。

残念ながら、チャップマンは大きなスキャンダルに巻き込まれて、 それが完全に解決する前、'82年の12月に54歳の若さで他界してしまった。 直接の死因は心臓発作だったけど、詳細は謎に包まれたまま...。 その後のLotusは、GM、Bugatti、そして現在のProtonと、 それこそ蓮の葉が水面を漂うように親会社が変わり、最近はまるで元気がない。 Lotus carsとTeam Lotusの関係も現在はかなり複雑で、 F1も'94年に撤退してしまった。

でもね、明るいニュースだって少ないとはいえあるにはあるんだ。 ある人の愛娘さんのとても可愛い名前をもらった、 それでいて思いっきり硬派なスポーツを久々に発売したんだ。 Eliseっていうんだけど、これがもう超ウルトラド級のカッコよさ。 本当に久々のLightweightのLotusの復活だ。これぞLotusの真骨頂!てな感じ。 さらに、今後ヨーロッパでのタバコ産業の締め出しがよりきつくなって、 結果的にアジアでのグランプリ開催がもっと増えることになったとしたら、 ひょっとしたら、もしかしたら、Team Lotusがグランプリにもどってくるかもしれないんだ。 世界中のLotusファンがその日が来るのを待ち焦がれているんだよ。」

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あー、疲れた。毎度のことながら面倒くさいな。喉乾いちゃったよ。 ところで女の子達はどこ行っちゃったんだろ???


Elanってなんですか?

合コンも何度もやってると、稀に本当にLotusを知ってる娘に出会うこともある。 ある娘はこう言った。

「私、Lotusって知ってるよ。確かお兄ちゃんが持ってる漫画で読んだ。 南風って人が描いてるやつ。」

それはおそらく西風さんの間違いだろうと思ったが、とりあえず黙っておいた。 他にもワイドショーで見たことがあるという人もいた。 どうやら2代目引田天功さんや反町さんのEspritらしい。

Lotusは知っていても、Elanという車を知っている娘はまずいない。 「どんな形の車なの? 聞けば多分わかると思う。」というので一応説明してみる。

「えっと、割と小さくて、2人乗りで、たいてい屋根がなくて、リトラクタブル、 ようするに昼間ライトが引っ込むやつね、で、速くてお洒落で格好いいスポーツカー、てとこかな?」
「なんだー、それなら知ってるよ。近所に止まってるもん。Roadsterでしょ!」

ここで早合点して「ああ! 君はなんてクルマ通なんでしょう。」などと感動するのは早過ぎる。 彼女はまず間違いなくRoadsterを一般名詞ではなく固有名詞で使っているのである。 つまり形状を示す用語ではなく、単にEunos/mazda Roadsterのことを言っているのだ。

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「確かに似てるよね。間違えるのも無理ないよ。 でもねー、2年くらいEunos RoadsterとLotus Elanを両方持っていたことがあるんだけど、 この両車って、よくよく乗り比べてみると本当は結構違う車なんだ。 もちろん両方とも大好きだよ。

Elanの説明をする前に、まずEliteの失敗について話さないといけないね。 type 14 EliteはLotusが作った初めての本格的なGTカーで、 なんとびっくりグラスファイバー製のモノコック構造を持っていた。 EngineはCoventry Cilmaxっていって、元来は消防ポンプ用だけど非常に高性能なもの。 Eliteは発表からセンセーショナルだったが、 チャップマンはさらにそれをレースでの活躍で有名にしたんだ。 ルマンではクラス1,2位を制覇したこともあるんだよ。 日本でも三島由紀夫が小説にEliteを登場させている。 女性がこれに乗れたら死んでもいいって台詞を言うんだ。

Eliteは車としてはよかったのだが、商業的には大失敗だった。 特長でもあるグラスファイバーのモノコックを作るのに手間がかかりすぎて、 せっかく抱えていたバックオーダもキャンセル続き。 作った分は売れたが何故か儲からないのでよくよく計算してみると、 一台売れるごとに100ポンドの赤字だった。 Coventry Climaxはよく壊れ、また一般のユーザには扱い難い代物であったために 主に米国でクレームが相次ぎ、とうとうディーラがつぶれてしまった。 当然Lotusの経営状態はどんどん悪化し、次の売れる車を作る必要に迫られた。

そんなプレッシャーの中で作られた車こそがElanなんだ。

Elanの開発プロジェクトは発足した当初MP(Major Project)と呼ばれ、 後にM2と改名された。M2ってどこかで聞いた名前だよね? EngineはElan専用のTwincam headを作ることが決まり、 最終的にFordの116Eのブロックを利用して名機Lotus Twincamが生まれた。 ボディは米国市場を睨んでRoadsterでいくことになったが、 Eliteの失敗からグラスファイバー製モノコックは断念し、 X型バックボーンフレームにグラスファイバー製のボディを載せることになった。 バックボーンフレームはチャップマンの発想の代名詞のように書かれることが多いが、 すでに別段新しい技術ではなかったし、 常に革新を求め続けるチャップマンはElanもモノコックでやりたかったようだ。 当時はまだF1も鋼管スペースフレームだったけど チャップマンにはモノコックの有意性が本当に見えていたんだろうね。 Eliteの二の舞いになるという理由で大反対されてElanでは納得したようだが、 F1のモノコック化は同時期にLotus 25に始まり、現在まで続いている。 余談になるけど、Elanと同じ構造をもつToyota 2000GTのバックボーンフレームはElanのものと瓜二つだよ。 写真だと大きさが分からないから見分けがつかないくらいにね。 これが何を意味するか、わかるよね?

完成したtype 26 Elanは1962年のロンドンショーで発表された途端、大反響をもって市場に迎えられた。 まあ、Jaguar E-typeに近い性能をより安い値段で手に入れられるんだから当たり前だよね。 発売開始後のElanは本国はもちろん、米国でも受け入れられた。 Eliteの教訓を生かして作られたボディは生産性もよく、 結果的にLotusはどうにか経営危機から脱することが出来たんだよ。

初期のモデルはLotus Elan 1600という車名で900台(26R phase1 54台を含む)が生産されたんだけど、 その後'64年にSeries 2が出てからはSeries 1って呼ばれてる。 僕のElanは'64年1月に生産されたSeries 1で、S2への過渡期のものだから、 場合によってはS1.5なんて呼ぶ人もいるよ。 その後SE(Special Equipment)、S3、S4とより豪華な方向に変化していき、 DHC(Drop Head Coupe)だけでなくFHC(Fixed Head Coupe)も作られた。 ようするに屋根があるやつってことね。 そしてBig ValveというLotus T/Cエンジンのホットバージョンを積んだSprintをもってElanの生産は'73年に終了。 その間、純粋なレーシングバージョンの26RやB.R.M. Elanなんてのもあった。 S1からSprintまでの総生産台数は大体9,000台くらいかな。

僕はLotusの車は全部大好きなんだけど、その中でもElanは特別に好きなんだ。 何故だかよくわからないけど好きなんだからしょうがない。 世の中にはもっともっと美しいと思える車、例えばDino 246gtとかあるけど、 Elanを眺めていると1時間でも2時間でも飽きないんだ。 一見のっぺりとしたボディもよく見ると微妙な曲面があって、すごく色気があるんだ。 こらこら、FRPがペコペコしてるって意味じゃないよ。

そして走り出したが最後、きっとElanの虜になってしまうよ。 右足の動きにWeberが奏でる吸気音が敏感に反応し、もっと走りたいという気持ちを煽ってくる。 Weberと会話しながら、エンジンの欲しがるだけの燃料を与えてやるんだ。 音は大きいけど、うるさいから気持ちいいんじゃない。車が瞬時に反応するところが大切。 エンジンは今のレベルでは全然大したことはないんだけど、それでも約700kgの車体を動かすには十分。 荒削りなDOHCのカムに乗る瞬間ってホントに痺れるものだよ。

ステアリングはロックトゥロック2.5回転とクイックで気持ちいい。 その分、図体の割に小回りが効かなくて街中ではちょっと困ることもあるけどね。 サスペンションは、前:Wウィッシュボーン、後:ストラットと何の変哲のないものなのに、何故だか知らんがよく曲がる。 前足は必死に路面に食いつき、後足は粘りながら、狙ったところをきっちり回っていくんだ。 機構が本当にバランスよく働いてるって感じがシートとステアリングからビンビン伝わってくるんだよ。

Eliteは公道を走るレーシングカーって言われたけど、Elanも確かにレーシングカーの血を引いている。 疑うのなら一度サーキットに持っていってみたらいい。 公道ではちょっと変わった乗用車に見えていたものが、 ゼッケンを貼ってピットに止めただけで、まるで見違える。 やっぱりLotusはサーキットが一番よく似合うんだね。

僕はLotus Elanが世の中で一番いい車だとは言ってないし、そう思ってもいない。 世の中にもっと素晴らしい車はたくさんあるし、 もし「Eunos/mazda RoadsterとElanはどちらがいい車か?」と問われたら、 一寸考えた後に「そりゃEunos/mazda Roadsterでしょ」って答えると思う。 結局言えるのはElanが好きだってことだけ。 Lotus、Chapman、そしてJim Clarkが好きなんだ。 何故Elanが好きなのか自分でもよくわかってないけど、 もしかしたら、Chapmanが作り出した車をJim Clarkが走らせる、 -- Lotusが最もLotusらしかった --、そんな時代のLotusが製造したElanを走らせることで、あるいは所有することで、 その憧れみたなものを具現化しているだけなのかもしれないよ。 ちなみにElanの第1号車はJim Clarkにプレゼントされたんだ。

そうそう、言い忘れた。Elanには4座の+2ってモデルもあるんだけど、 そっちの話も聞きたい?」

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...などと長々と始めると女の子達にまた帰られてしまうので、 ここは辛抱で次の一言で済ます。

「まあ、Elanってのはその御近所のRoadsterを一回り小さくしたような車だと思えばいいよ。」


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Takahiro Asai (t_asai@yk.rim.or.jp)
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